第33回地域文化研究専攻 主催
公開 シンポジウム
地域から「連帯」を問い直す
第32回地域文化研究専攻主催 公開シンポジウム
地域から「連帯」を問い直す
多様な地域、時代、分野を専門とするスタッフからなる本専攻では、毎年、地域と分野を横断・越境するテーマを取り上げ、公開シンポジウムを開催しています。
2025年度のテーマは「連帯」です。
「連帯」Solidarityの概念は、市民革命期のヨーロッパで、政治的解放と社会的平等を求める標語として生まれ、19世紀以降、特に社会権拡大のために用いられてきました。たとえば今日でも、EU市民と住民の権利を明示する欧州連合基本権憲章は、尊厳、自由、平等、連帯、市民権、司法の6項目をEU共通の価値と定め、そのうち「連帯」のカテゴリーでは、社会保障、生活扶助、労働条件等の社会的権利が扱われています。ヨーロッパにおける「連帯」のイメージは、国民健康保険、年金、税による再分配など、福祉制度の充実と経済的格差の是正と深くかかわっています。
「連帯」は、権利の獲得、経済格差の是正、労働条件の改善を目指すものであったため、労働運動と親和的で、とりわけ20世紀後半には、左派運動のスローガンとして国際的に広まりました。資本主義に対抗する労働者の連帯や、植民地主義に対抗する第三世界の連帯、軍事政権に対抗する市民の連帯、共産党独裁に抵抗する民主化運動など、「連帯」は、抑圧的権力から虐げられた者の解放をめざす戦闘的な団結の標語となりました。
今日、国民国家を単位に発展してきた社会福祉制度は、グローバル化に伴う経済構造の変化と人の移動によって揺るがされています。富める者は自助努力を掲げて公的扶助の負担を逃れようとし、労働組合のような互助組織からも社会保障制度からもこぼれ落ちた人たちは、孤立し、団結して権利を訴える道を見つけられないでいるようにみえます。グローバルな経済格差や深刻な環境汚染、侵略戦争を前に、国境を越えた協力はいっそう必要性を増していますが、アメリカ、ロシア、中国の超大国は自国優先の方針をますます先鋭化させています。
旧来の連帯の枠組みが揺らぐ一方で、身近なコミュニティを基盤とした結びつきを見直す動きもみられます。大災害のあとにみられる相互扶助や、侵略戦争や人権侵害に対抗してSNSにあふれる意見表明など、一時的で緩やかな繋がりにも、「連帯」ということばが使われるようになりました。こうした国民国家以前の古い、あるいは最新の通信技術による新しい連帯の登場の一方で、国民国家の枠組みでの統合の試みや、国際協力の制度化の努力も続いています。
さかのぼれば「連帯」概念は、18世紀末ヨーロッパの市民革命のなかで、古代都市国家にあった共和国市民の排他的団結の伝統と、キリスト教がとなえる普遍的友愛の伝統が出会うことで生まれました。その出自ゆえに、「連帯」には排除と包摂という二つの側面があります。それは一方で、すべての人間がつながりあい助け合うことをめざし、他方で、その助け合いを実現するために、境界を持った特定の共同体の枠組みを必要とします。
本シンポジウムでは、西欧に起源をもつ「連帯」概念の特殊性と限界を問い直し、地域ごとの実践事例を手懸りに、今日におけるその多様な可能性と課題を考えます。どなたでもお気軽にご参加ください。
日 時:2025年6月28日(土)14時〜17時30分
場 所:東京大学駒場キャンパスⅠ18号館ホール(オンライン同時配信あり)
https://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_17_j.html
*参加ご希望の方は、対面参加・オンライン参加を問わず、6月24日(火)までに下記のサイトからご登録ください。ご入力いただいたメールアドレスに、シンポジウム前日までに、配布資料とZoom URLをお送りします。
https://forms.gle/Qaman2TZNfRSmNaU8
*参加費は無料です。
報告:「フランスにおける連帯と反功利主義――思想と実践の交差点から」
藤岡 俊博(地域文化研究専攻)
報告:「中国農村の二つの『連帯』について――道づくりにみる『つながり』と『まとまり』」
田原 史起(地域文化研究専攻)
報告:「投票権と社会権――20世紀後半のアメリカ合衆国における包摂と『連帯』の問題」
平松 彩子(地域文化研究専攻)
コメンテーター
伊藤 匠平(地域文化研究専攻博士課程)
外村 大 (地域文化研究専攻)
司 会:速水 淑子(地域文化研究専攻)
企 画:速水 淑子・上 英明(地域文化研究専攻)
主 催:東京大学 大学院総合文化研究科 地域文化研究専攻